●2010年6月10日号より
「こころの健康政策構想会議裏話」
こころの健康政策構想会議についてはこれまでも述べました。民間病院からは起草委員として埼玉県の大宮厚生病院副院長、小島卓也先生(元日本精神神経学会理事長、元日本大学教授)と検討委員の私の2人だけなので、民間病院経営についてわかる人は他にいません。そこで2回にわたって意見書を出したのでここに転載します。最初のものは5月1〜2日の合宿のすぐ後の3日に書いて送ったものです。さわ病院では必要が無くても、スムーズにしかも早期に病床削減して患者さんにも大きな不安をかけない方法としては、病床の施設への移行も必要ということで合宿で議論しましたが座長の松沢病院長岡崎先生は理解を示してくれましたが他の人からは賛同を得なかったので出したものです。
2つ目は5月23日に最後の会議を経て29日に長妻厚生労働大臣に出す案文に対して出したものです。
各委員の方へ 5月3日
先日の5月1日深夜(実際は2日)の議論がありましたが、病院敷地内の暫定的移行施設について私の意見を少し追加させていただきます。これは何度もいうように、日精協を中心とした私的病院の生き残りのためではありません。私は以前から地域で障害ある人が生活するには@住まう場A日中活動する場Bサポートする人とその連携C地域の人々の理解と受容が不可欠といってきました。住まう場としては、地域で生活できる人はそのための居住する場を地域で用意するほうがよいに決まっています。病床を半減して15万床とするという方向性を出せばその人たちの居住の場を地域に用意しなければなりません。空いた15万床分にはそのまま15万人が入るわけではありません。平田先生が出しておられたように、もしアメニティの高い個室に転換するとすると、6人部屋は2つの個室としてぎりぎりでしょう。つまり残れたとしても5万人分です。10万人分の居住施設をすぐに地域につくれるでしょうか。88年の精神保健法以来社会復帰を掲げられてもこれまで2万人分程度しか用意できなかった事実があります。建前としてはすべて地域で居住の場が用意されるのが望ましいでしょうがそれまでどの位かかるかと考えると気が遠くなります。あの夜にも申し上げましたが、以前吉田課長に一人外に出すために1000万円用意したらできるだろうといいましたが、担保するものがないといわれて終わりました。私は今も1人分に1000万円出して住む場を用意し、その家は国の財産として当分無利子で貸してくれたらいいと考えています。国は財産が減るわけではないので担保になるでしょう。それでも10万人分を地域に用意するのはかなりの努力がいると思いますし、絶対今後更に20年かけてはならないと思います。長くても10年でしょう。また高齢者がいるから特養に移行して病院入院者の数からはずせばよいくらいに国は考えているのかもしれませんが、それもすぐに用意されるとも思いません。私は1992年に日精協誌、精神神経学雑誌に「社会復帰と住居問題-ゲリラ的共同生活の展開-」、「精神保健・福祉・医療のシステム化をめざして-精神病院の立場から(社会復帰と住居問題をグループホームの展開から考える)-」と書きました。やれば出来るのだと思います。
日中の活動の場は現在の自立支援法の施設でカバーできるでしょうか?もちろん一般就労がよいに決まってますが健常者でも仕事のない時代ですからかなりむずかしいでしょう。ではデイケアはといってもそのための場を病棟からの転換で行うとすると、新しい6.4平米のところでなければ、旧基準の入院施設で要求された4.3平米が4平米に変わるので、病床を居住の場にすることも実際には困難にもなります。
私が87年に大熊和夫氏らとイタリアに行ったとき知り合ったイタリアの精神科医(セッラ先生)を招いて私どもの病院を見てもらった時に彼が言いました。「この病院で患者さんが薬でひょろひょろになっていなくて安心した。でもそれならなぜこの人たちが入院しているのかと思います。患者さんを少しずつ地域に出して、同時に職員も出していけばよい。病室はテントと同じです。雨が降ったら入ればよい。やんだらたたんで外に出たらよい」と。簡単な論理です。サポートする人々として、病床削減と連動してその分の看護師を地域に出していけるでしょうか?生活者となってくると医療より生活支援のほうが大切だから精神保健福祉士やヘルパーのほうがいい点もありますが、これまでのなじみ(馴れ合いでなく)の関係の人(看護師)がいるのも安心の材料にもなり、孤独からくる自殺も防げると思います。そうなると病棟の看護基準を上げるのも大変です。もちろん地域の人々の理解もすぐに得られるとは思いません。
病床半減は目標であってもそれに至るまでのアクションプランは財源を中心にお先真っ暗です。さらに今回の検討委員には民間病院の出身者が小島先生と私ぐらいですので民間病院の立場も申し上げねばなりません。もちろん開放処遇の療養病棟から手がつくでしょうが、半減目標は公立私立を問わず行われるでしょう。この時民間病院は公立病院と同じ土俵で仕事をさせてもらわないとやっていけません。公立病院は独立行政法人になっても県からの負担金交付金があり、また新築改造には別のお金が入ってきます。民間病院は一部のわずかな補助金を除くと医業収入がすべてです。新築改造も貯めたお金か借金でやっています。改造時も不便をかけるのを承知で入院患者数を守りながら行わないとやっていけません。大阪では公立病院の新築時にはたくさんの患者さんを民間に頼むとか言っています。民間は苦しいから空きベッドを埋めるためにタカッテいくかもしれません。これと同じような流れで公立病院が半減できるならそれはおかしな話で、民間病院も公立と同じ基準で半減しやっていけるような仕組みを考えないとこの改革は進まないと思います。もちろん民間で出来ない医療観察法病棟などでは、力を発揮していただきたいと思います。あちら立てればこちら立たずといった話ばかりでしたがこれらを考慮に入れて、時期時期を分けて人も施設も数値化し、各グループでアクションプランを立てていただきたいと思います。 澤 温
入院医療WGの提言への澤の追加意見 5月23日
国の収容および低医療費精神医療施策に反省を示したこの期を逃しては、改革は絶対にできない。そして改革という限り、現在処遇を受けている人に役立つものでなくてはならず、精神保健法施行から22年間も進まなかったことを繰り返してはならない。今後遅くとも10年で完成させなければ政策といえない。
精神医療を基本的に一般医療並みにするには、人員配置、人口対病床数、患者一人当たりの入院費用は連動して改善されなければならず、一部だけのつまみ食いではできわけはなく、この3つの連動を無視する政策には断固として反対する。医師配置を16:1にしようとするなら、現在の病床数は1/3にしないとなりたたないとして入院費用は3倍と考えて進めるべきである。
先進諸外国と同様のレベルを目標とするなら、任意入院で1日5万円以上、非自発的入院では7.5万円以上とすべきである。適切な在院日数は疾患の治癒過程に従った日数を考えるべきで、先進諸外国の一部で行われ、専門家から医療の質の低下を指摘されるほどの短期入院期間を目標とすべきでない。この時これまでより入院の自己負担分も増えることは(高額療養費の減免は保険によってはあるにせよ)認識してもらわねばならない。
この改革をするにあたって、精神保健福祉法上の処遇は同じであっても、入院治療の経過が違うことから、認知症患者のための病床数は、切り離して政策を考えるべきである。また医療観察法病棟は当然はずすべきである。慢性の重症患者の処遇は救急入院料に匹敵するほどの手厚い人的、環境的支援と、それを支える経済的支援が必要である。
地域でのサポートがないために社会的入院を余儀なくされていることが許されないのと同じく、地域のサポートがないために医学的には入院しなくてもよいような救急患者には不要な救急入院患者を増やすことにならないように、シェルター機能を充実させなければならない。
このようにして医学的な入院医療をスリムにする時、これまでに発生した社会的入院者、および今後生んではならない社会的入院予備者を地域で支える医療と福祉的支援が不可欠で、それがなければ、減床も実際には不可能である。あえて医療者が福祉的支援に口を出さないとすると、社会と福祉関係者はその地域処遇に全責任を持たねばならない。
澤 温
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