OBの声 木原章雄 先生

さわ病院での専門医研修で学んだこと
~卒業生からのメッセージ~

 私は平成17年に和歌山県立医科大学を卒業後、沖縄県立中部病院で2年間の初期研修を行いました。学生時代にさわ病院を見学させて頂き、精神科医になることを決めていましたが、初期研修の間に総合内科や救急・プライマリケアなど、幅広く身体疾患を診るスキルを身に着けておけば、より専門医研修に専念できるだろうと考え、日本で最もハードな研修といわれる中部病院初期研修プログラムに応募しました。中部病院の初期研修は噂にたがわず過酷で、当直は2~3日に1回、平均睡眠時間は4時間程度でしたが、モチベーションの高い研修医が集まっており、ほとんど負担を感じることはなく、充実した2年間を過ごしました。1年目で1200件の救急初診を担当し、2年目で記載した退院サマリーは400件にのぼりました。このような環境に恵まれたおかげで、脊髄反射で身体疾患の初期対応を行うスキルを効率よく身に着けた上で、3年目に念願のさわ病院で専門医研修を開始することができました。

 さわ病院での研修期間は、人生で最も大切な出会いや学びを得た時期でした。私にとって幸せだったのは8名の素晴らしい同期と一緒に仕事ができたことです。それぞれ豊富な人生経験や面白いキャラクターを持ちながら、探求心が強く、勉強熱心で、一緒に成長していこうという気概があふれた職場で、毎日仕事に行くのが楽しみでした。多くの患者さまから沢山の学びを得ることができました。さわ病院は「迅速性、責任性、継続性」という澤院長の理念が組織のすみずみまで浸透しており、結果として一人一人の患者さまを、入院から退院後のフォローを含め、一貫して主治医として担当させて頂くことができました。強力な病院組織と確固たる理念の後ろ盾があるが由に、主治医としての責任や裁量が大きく、症例の豊富さ多様さも相まって、最高の研修ができたと思います。認知症疾患理療センターを有すること、クロザピン治療を経験できること、m-ECT症例を経験できること、中毒や器質精神病や思春期症例などが、かなり豊富であることも、研修病院としての魅力であると思います。沖縄県中部の平和病院へ出張研修に行くことができたことも幸運でした。統合失調症慢性期の患者さまと多くふれあい、小渡院長より統合失調症の精神病理学の奥深さをご教示いただき、さわ病院に戻ったとき、診療の引き出しが増えたことを実感できました。

 いつまでも仕事を続けていたかったさわ病院ですが、家庭の都合により転居のため平成22年8月に退職し、同年9月より兵庫県西脇市立西脇病院に赴任することになりました。院内でただ一人の精神科常勤医、いわゆる「ひとり医長」として何ができるか考えたところ、以下の4点に診療の重点をおき、診療科の特性をアピールすることにしました。1.認知症の鑑別診断(SPECT・MRI・高次脳機能検査)、2サイコオンコロジーの領域(がん診療拠点病院としての役割)、3.リエゾンコンサルテーションの領域、4.m-ECTや合併症の入院治療(総合病院一般病床を利用しての入院治療)の4点です。認知症診療については北播磨県民局など行政の後押しもあり、平成26年8月に北播磨地域の認知症疾患医療センターの指定を受けることができました。月に30件以上の認知症鑑別診断を行い、平成27年度には県内の疾患センターで3番手の規模の鑑別診断件数をあげるに至りました。リエゾンの領域では平成26年3月にリエゾン専門医の特定研修施設となり、自らも平成28年6月に正式なリエゾン専門医となることができました。年間の新規リエゾン依頼は150件から200件、診察回数は年間約1500回と、一人体制の精神科としては十分にアクティブな活動ができたと思います。m-ECTの施行にあたっては、まず自らが麻酔科標榜医を取得することから準備を始めました。2年間で200件の全身麻酔を担当し、標榜医取得後、平成25年4月よりm-ECTの入院受け入れを開始しました。平成28年8月までの累計で、延べ42名の患者に約150件のm-ECTを施行しました。

 一方、上記4点の診療に力を入れつつも、「診療時間中は決して患者を断らない」という理念を貫き通すことを自らに課しました。初診・再診・予約外を問わず、その日に来院や依頼のあった診察をすべて引き受けるというスタンスで診療を続けたところ、年間初診患者数は平成27年度には約1000名、延べ診察患者数は14000名、精神科単独の売上額が1億2千万円近くに達するに至りました。その後、平成28年4月頃から、西脇病院精神科での診療を、さらに飛躍をさせるのにはどうすればよいか、次のステップを考えるようになりました。より患者様にとって身近で、地域医療に貢献できる形で診療を行うには、地域密着型の診療所へ機能を移行することが一つの手段ではないかと考えるに至り、平成28年8月に西脇病院を退職し、10月に「きはら心療クリニック」を開設しました。

 一つ所にとどまらず、精神科の多領域で、常に新しい目標に向かって、自らのパフォーマンスを最適化せよという暗黙のメッセージに従い行動してきたように思います。いつも自分の中にはさわ病院での研修が生きているのを実感しています。さらに告白すると、澤温院長の姿が、私自身の人生のロールモデルとして、行動や決断において大きな影響を与え続けています。私は大学を卒業以来、特定の大学医局に属したことはありません。しかし、「私の出身医局は『さわ病院』です」と自信をもってこたえることができます。まだまだ駆け出しのクリニック院長で、これからも目標の達成には多くの困難が控えているとは思いますが、さわ病院で叩き込まれた精神力を生かして乗り切りれると信じています。

 人生において最も幸せであった、さわ病院の研修医時代の同期に感謝しています。多くの人にこの幸せをぜひ体験して頂きたいと思っています。

ページの先頭へ